3D立体視と家庭用ゲーム


【アナグリフ方式(Anaglyph)】

赤青メガネを使用する。左右異なる角度で撮影したものを赤と青に色付けしてダブらせると
メガネを通して3Dに見えるという仕組み。立体視の歴史では最も古く、かつリーズナブルな方式で
ゲームとしては1987年の「とびだせ大作戦」(FCディスク)や1988年の「Wanderer 3D」(Amiga)に始まる。
長所:
赤青メガネは手軽に自作でき、製品付属のものを紛失した際の代替やオーディエンス用に量産可能。
テレビもブラウン管である必要性がなく、敷居は低い。
短所:
視界は赤と青の世界、実質、背景や対象物の色の識別はできない。

1996年の「Contra Legacy of War」(PS)や1998年の「Heart of Darkness」(PS)でも採用しているが
時代的にインパクトの無さは否めなかった。しかし21世紀になっても採用するゲームあり。
Zone 3D」は2010年代にも関わらず堂々と赤青メガネを付属させた『据え置きハード』だ。(笑)

【時分割方式】

左右異なる角度で撮影したものを極めて短い周期で切り替え続け、
それに合わせて(同期して)左右の目を交互に覆わせる(見えなくする)手法。
ゲームとしては大きく2種類に分かれる。

1. ディスク回転式

1922年の丸ウチワ型をした最古クラスのシャッター眼鏡や
1953年の最古クラスの3Dテレビから続くクラシックな手法と原理は似ており、
1982年にセガのアーケードゲームでも採用されていたが、
家庭用には1983年、Vectrex(光速船)向けに3Dメガネと対応ゲームが発売された。
ディスク回転式とは、黒塗り部分と透明部分がある円盤を
目の前で回転させるもので、ここでいう3Dメガネとは
「3D Imager」というスコープ型のゴッツイ代物である。
とりわけ、この「3D Imager」で使用する円盤は、
透明部分に赤・青・緑の色掛けがされており、
元々青白いワイヤーが動くだけのVectrexゲームを
カラーで立体視させる逸品であった。
しかしながら、元々Vectrexは他のハードと根本的に異なっており
各ワイヤーがカラーで飛び出して見えるというだけであるから、
異常に酔狂な光速船ファンしか喜ばない商品といえるだろう。
以下、
Vectrex周辺機器「3D Imager」対応タイトル

発売年
商品名
1983
3D MineStorm
1983
3D Crazy Coaster
1983
3D Narrow Escape
2006
3D Lord of the Robots
2010
3D Sector-X

2. 液晶シャッター眼鏡式

ここで使われる3Dメガネとは、目の前に仕込まれた小さな液晶を点滅させるもの。
LSI(電子ゲーム)で例えれば画面が全表示(真っ黒)になっている状態と
まったく表示されていない状態とを極めて短時間で切り替え続けるようなもの。
これで「右目が覆われ左目が素通し」と「右目が素通しで左目が覆われ」の切り替えが実現。
1987年、任天堂の「3Dシステム」がファミコン・FCディスク対応ゲーム用に、
セガの「3Dグラス」がマスターシステム対応ゲーム用にリリースされたほか
(上記対応ソフトは↓のリンク先参照)、
1988年、Haitexの「X-specs 3D」がAmigaゲーム用にリリース。
1989年にはX68000向けに対応ソフトが1本だけリリースされた。
この方式の商品としては1991年、セガの「3Dグラス」対応最終タイトルのリリースで以って終了、
その後はAmigaでX-specs 3D対応フリーゲームやX68000で3D化パッチが細々と制作されるに留まった。
以下、時分割方式の
長所:
カラーで立体視を実現。
短所:
3Dグラスは自作不可、定価は高価、中古市場での入手難。
テレビはブラウン管に限る。液晶(LCD)のTVでは遊べない。
眼精疲労が激しく、長時間プレイはまず無理。

【HMD方式】

Head Mount Displayという仕様自体は1970年代には見られたアイデアであるが、
ここで取り上げるのは左右の目に別々の映像を見せて立体視を実現させるタイプ。
その3Dメガネはスコープ型であり 液晶シャッター式のと外見上は似ているが、
左右それぞれに小型のディスプレイを搭載しており、立体視のメカニズムは根本的に異なる。
更には、正面の視界が立体的に見える以外で
プレイヤーの頭の向きで視界が連動する「ヘッドトラッキン機能」が斬新であった。
1995年、Virtual i-Oの「i-glasses!」。
Windows95向けにRGB接続するタイプと、TV向けにコンポジット接続するタイプの2タイプがリリース。
いずれも物凄い高価っぷりで当時から敷居が高いとされたが、
より高価であった前者タイプにしか「ヘッドトラッキン機能」は付いていなかった。

Amigaには「i-glasses!」対応タイトルが4本だけ
存在しており、いずれも当サイト取扱いのテーマ
「レトロFPS」関連の商品である(偶然ながら)。
セッティン時に「i-glasses!」コースを選択すれば
「i-glasses!」が利用可能になるとされる。
しかし家庭用ゲーム機「CD32」で
Amigaのゲームを動かそうとするアプローチでは
起動すること自体にコテ技が要る上に、
醍醐味と言えるヘッドトラッキン機能付きの
Windows95向け「i-glasses!」自体は
(そのままでは)非対応ゆえ改造が必至と思われ、
マニアックさは極致をいくであろう。
世界的にも、コレに挑む人の存在確認は難しい。



以下、
「i-glasses!」対応Amigaタイトル(1990年代まで)
ABD= Amiga Booting Difficulty for CD32
発売年
商品名
ABD
インストール先
1996
Gloom Deluxe
Lv.1
不要
1996
Nemac IV
Lv.5
HD (5MB分のスペース)
1997
Gloom3: Zombie Edition
Lv.3
フロッピー版を自作可能(リンク先参照)
1998
Zombie Massacre (Gloom4)
Lv.3
フロッピー版を自作可能(リンク先参照)


実はAtariのJaguar専用としても、
ヘッドトラッキン機能付きの3Dスコープである「Jaguar VR headset」が開発されていた。
ユニット自体は廉価版と合わせた2種類を予定していたが いずれも発売中止となり、
現実には若干数のプロトタイプのみが存在。しかもその内の幾つかは壊れてしまっていて、
正常動作が確認できる現存ユニットは世界で2つのみとの曰く付き。
こちらも国際レベルのマニアたち垂涎の一品となっている。
その対応ソフトとして実在するタイトルとしては
既にリリース済みのJaguar版「Missile Command 3D」のVirtualモードが対応を予定していた。

【プルフリッヒ方式(Pulfrich)】

人間は視界が暗いと知覚が遅れる・・・という性質に付け込んだアイデアで、例えば
左目側がグレー(または濃い紫)、右目側が透明(または薄い黄)という3Dメガネをかければ
右から左へ流れるものが手前に飛び出て、
左から右へ流れるものが奥に見えるという錯覚を引き起こして立体視を実現。
長所:
片目でカラーを捉えている為、対象物の色の識別を損なわない(カラー立体視)。
3Dメガネは自作可能。サングラスの片方のレンズを取るなりして代替も可能という敷居の低さ。
TVもブラウン管である必要なし。現代の液晶薄型でOK。
短所:
3Dに見えるべき対象物は、常に左または右へ動いていなければならない。

3Dメガネ同梱で発売されたゲームは
1991年の「Orb-3D」(NES)と1993年の「Jim Power」(SNES)しか存在しない。
しかし、上記の仕様を読めば分かる通り、
背景が流れ続けるゲームであれば、片方だけサングラスした状態で
立体的に見えることになる。例えば
1990年の「アクトレイザー」(SFC)ラスボス戦の背景の白い星屑が立体的に見える。
1991年の「ライザンバーU」(PCE)の1面は背景が高速で左へ流れるので
右目のみサングラスという自作メガネか、下記の「Orb-3D」用の3Dメガネを使うと奥行きが出る。
2Dシューターゲームならば、まだまだ試す価値あり。探してみよう!

「Orb-3D」

クラシックな「Pong」タイプのゲームを変形させたようなスタイルで、
「Pong」の玉が宇宙船になった感じ。この宇宙船が画面奥から手前へ弧を描いて回っているように
見えるというもの。付属の3Dメガネは右目側が暗いという仕様。

「Jim Power: The Lost Dimention in 3D」

奥の背景が左から右へ流れる件に関して不快感にも似た疑問を抱く外人が散見するが、
これこそプルフリッヒ効果を狙ったもので、おそらく彼らは裸ソフトのみを買った為に
その有難味に気づいていないだけであろう。
背景だけでなく、1面ボスや4面ボスが「Orb-3D」の宇宙船と似たような動きをするのも、
プルフリッヒ効果で立体的に見えることを狙ったものである。
ここでプルフリッヒの「短所」 を今一度。
「常に動いていなければ立体的に見えない」という点。
シューター面ならまだしも、アクション面に於いて背景をスクロールさせ続けるために急ぐと
即、激突死してしまうようなゲームであるから、(実際はチマチマ進むことになるので)
アクション面では比較的効果が発揮されにくいのが現状。
一方で、
幻となったMD版(ロシアでは「Avatar」と名を変えて流出中)の最終ステージでは
プレーヤーの移動に関係なく、奥の背景が左から右へ自動スクロールし続ける。
皮肉にも、MD版「Avatar」は「3D」という副題も付いていなければ
3Dメガネ(左目側が暗いという仕様)が付属しているわけでもない。
(自作でもSNES版のでも構わないが)3DメガネをかけてMD版の最終ステージへ来た時に、
「ジム・パワーの3D効果」の真価を 発狂にも似たエクスタシーと共に感じることができるとは。

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